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試作品でも不良品でも何でもいいのだが、技術者の仕事のひとつに、解析する、というのがある。
実物を観察し、その特徴を抽象化し、データを処理し、報告書にまとめる、というのが大まかな流れだ。
これは、山師が宝石を採掘する仕事と、それほど変わらない。
技術者はまず、実物を観察する。アタリをつけるためだ。鉱脈を掘る作業に当たる前に、そもそもどこが鉱脈なのかを見極めなければならない。鉱脈の無いところでは、いくら掘っても何も出ない。
大抵、時間が掛かるし、ちっとも進まないように見える。もちろん誰にも評価されない。そのため、この作業は非常に精神を消耗する。だが、納得するまで続けろ。アタリをつけないまま写真を1,000枚も撮ったところで、出来上がるのは屑の山なのだ。
アタリをつけたら、いよいよ掘る作業に入る。特徴の抽象化だ。
それが本当に当たりなのかどうかは、信じるしかない。100個だろうが、10,000個だろうが、数えろ。写真を撮れ。数値化し、相対化しろ。3時間で終わるかもしれないし、8時間かかるかもしれない。何日もかかることもある。
とにかく掘り続けろ。掘っているときに、隣の山が気になるときがあるかもしれない。あるいは、ルビーを掘っている途中で、金の鉱脈を見つけてしまうかもしれない。
迷ってはいけない。隣の山は良く見えるだけだ。金の鉱脈はそれはそれで素晴らしい価値を生むかもしれないが、後回しにしろ。我々のお客様は、とにかく一刻も早くルビーをとお望みだ。
抽象化されたデータは、原石だ。我々や我々の仲間はその価値を十分に認識しているが、多くのお客様はその価値が解らない。原石をごろんと出しても、お客様は買ってくれない。磨け。原石を研磨して、宝石にして出すのだ。これがデータ処理だ。
数学理論が、磨くための道具になる。高度な統計処理を施されたデータほど、より高い価値のあるデータになる。つまらない原石に見えても、磨けば輝く場合もある。熟練した職人ほど見事な研磨を施す。
だが、基本的にはGIGOだ。石は磨いても石だし、小さい原石は磨けない。10点やそこらのデータに統計処理を施すな。無くなるから。
宝石と同じように、この過程で、情報は必ず小さくなる。だが削られた情報に未練を残すな。それを削ったおかげで、宝石は輝きを増したのだ。大丈夫だ。新たに生じたその美しい面に、必ず証拠が残っている。
最後に、データをまとめて報告書を作る。これは営業だ。
素晴らしい宝石は、いずれ誰かに見出してもらえる、などと信じてはいけない。営業しなければ、だれも買ってはくれない。見栄えのする広告チラシを作成して、お客様に提示しなければならない。
我々が知らせたいものを知らせるのではない。お客様が見たいものを見せるのだ。相手に合わせて、常に見せ方を変えろ。大人には大人向けの、子供には子供向けの宣伝手法があるはずだ。
写りのよい写真を前面に出せ。飽きないように工夫しろ。この期に及んで、山師のプライドを残すな。飾れ。誇張しろ。ただし迎合はするな。
報告書の作成は、多くの場合、再利用できない細かい手間作業になるが、しかし時間を惜しむな。そして山掘りに逃げるな。