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まだインターネットが今ほどに広がっていなかったころ、インターネットの情報は珍しく、価値の高い情報だった。一方で、インターネット上の情報はどれも特殊すぎて、扱いにくかった。近所のひまな人が打ち込んだバスの時刻表は役に立ったが、信頼性はなかった。
やがて、誰もがインターネットで繋がるようになった。表面実装されたLSIを取り外す方法から、今日の特売チラシまで、あらゆる情報がインターネットに載るようになった。
プロの作るサイトが増え、質も向上した。近所のひまな人が打ち込んだバスの時刻表は、バス会社の提供する公式情報や、ダイヤ検索サイトに置き換わった。ペイントブラシで書かれた交差点の繋がっていない案内地図を見なくても、住所を打ち込むだけで、正確で詳細な地図が見られるようになった。
しかしながら、インターネット上の情報の価値そのものは減少し続けている。
誰もがインターネットを利用するようになって、ネット上の情報は、珍しいものではなくなった。検索エンジンの高性能化が、情報の価値をさらに押し下げた。どんな情報でも、ネットに上がったその瞬間から、誰もが知っている当たり前の情報になった。
いまや、インターネットに載らない情報の方が、はるかに高い価値を持つようになった。
情報の価値は、その質よりも、希少性のほうがはるかに大きい。
どんなにつまらなく些細なことでも、いま世界で自分しか知らないという情報こそ、もっとも価値が高い。