バンジージャンプという遊びがある。
簡単にいうと、足と足場をゴム紐でしっかりと結びつけ、高い場所から飛び降り、自由落下とゴムの弾性による反動を楽しむ遊びである。つい先日、機会があったので飛んできた。
233mの高さから地表上30mぐらいまで落ち、そのときゴム紐はもとの4倍の長さになる。落下時間は4?6秒間で、最高で時速180kmになるという。
こういう情報を与えられると、理工学系の人間はおよそ力学計算を始める。結論から言うと、最高時速には若干誇張があるように思われる。
まず、203mの自由落下だとすると、空気抵抗を無視すれば地表面まで6.4秒で到達し、そのときの速度は秒速63m = 時速226kmである。
しかしながら、バンジージャンプにおいては最下点での速度はゼロ、重力とゴムの弾性力はその前の時点でつり合って減速を始めているわけだから、ここまでの速度にはならない。
実際に、重力によって時速180kmに到達するためには、5.1秒の真空中での自由落下が必要となる。ゴムに拘束された状態での4?6秒の大気中の落下では時速180kmに到達するとは考えられない。
ところで、最下点は、荷重に比例する重力と、荷重に依存しないゴムの弾性力のバランスで決まる。逆に言うと、最初のゴムの長さは荷重(=各個人の体重)を考慮して調節されている必要がある。
そのため、ジャンプ前には念入りに体重が測定される。また、同時にジャンプしたい人が複数いる場合は、重い方から順番にジャンプする決まりになっている。間違えて軽い人の設定で重い人が飛ぶと、ゴムが伸びすぎる可能性がある。運営会社では、適当な方程式を立てて解いているものと思われる。
とにかく、安全対策だけは念入りに念入りを重ねていたので、安心して飛ぶことができた。
……そうはいっても。
飛び降りた瞬間、ぐらっと眩暈がする。その後、猛烈な加速で目が醒める。散々否定しながらも、最初の数秒は本当に自由落下だ。1秒で秒速9.8m。2秒で時速70km。そんな加速をする乗り物ってあんまりない。
こんなにも地球の重力って絶大なんだ。
地表のエアマットが近づいてきたところで、ぐっと上に引き戻される。あとはゴムの弾性で上下にぶらぶら。振動が減衰して、つり合いの位置で宙吊りになった後、ゆっくり下まで降ろされる。
見ている人にとっては結構長く感じるみたいだけど、飛んでいる方からするとほんの一瞬。空気抵抗がかなり大きいので、落ちていると言うより、飛んでいる感じになる。実際のところ、エレベーターほどの無重力感すらない。
ところで、ゴムが切れたら……という心配をすることがあるかもしれないが、ゴムが切れるとしたら最大限減速した後のはずなので、事前計算が正しければ、30m程度の自由落下で済むものと思われる。