junnno's BBS

新規投稿 日付順表示 ツリー順表示 スレッド順表示


(469) 隔日記 0xCA/0x100 by junnno' at 2005/01/17 01:09:17

隔日記 0xCA/0x100

物理系のプレプリントサーバにこんな論文が……。

今日のlink: ブロッコリーとカリフラワーのフラクタル次元について
http://xxx.lanl.gov/abs/cond-mat/0411597

グリーンブロッコリーとホワイトカリフラワーのフラクタル次元は、
断面ではそれぞれ1.78±0.02と1.88±0.02、バルクでは約2.7と2.8で、
ゆえに、ブロッコリーよりもカリフラワーの方がフラクタル次元が大きい、
ということらしい。

確かに、直感的にそんな気はするけど。
わざわざ調べたのが偉いと思う。


(F/F)

第三章

誇っても仕方がない程に他の調度品と不釣り合いな豪華さを誇る椅子に深々と腰掛けながら、
ただぼんやりと、天井に据え付けてある高価なインバータ式の蛍光灯を見ていた。
ディスプレイの横に置いてあるマグカップにはコーヒーが1cmほど残っていて、完全に冷めていた。
最近ネットワークエラーが頻発する問題の原因について、別に考えてはいなかったが、
部屋の照明が3秒ほど暗くなったのを見て、甲乙は急に不安になってキーボードを叩いた。

ディスプレイの上に、ミリオン・システムの端末画面が開かれる。
甲乙は512文字の英数記号で構成されるとっておきのパスワードを打ち込んだ。

基本的に、ミリオン・システムにアクセス出来るのは直接の研究者たちだけだ。
甲乙はこれに携わっている研究者ではなかったが、特別に優良からアクセス権をもらっていた。
その経緯は半年ほど前に優良とチェスプログラムを対戦させたときのチャットログに詳しい。

 fire wrote: あそこで人間的な戦略を持ち出すのはほぼ反則だぞ。
 quartz wrote: つまり、反則ではないということだ
 fire wrote: で、何が欲しいね?
 quartz wrote: ミリオンのアクセス権
 fire wrote: 考えるふりぐらいしろよ。
 quartz wrote: 昨日から決まっていた予定なんだ

こんな人の悪い人間もいないだろう、と甲乙は自分で自分に感心する。
甲乙はつい三日前に作ったチェスのプログラムが書き換えられているのに気付いていた。
あの特徴的な学習型アルゴリズムが追加されて最強のプログラムになっていた。
負けた優良が悔し紛れに当てつけでハックしたのだろう。

黒い画面のウィンドウに、ステータスメッセージが流れた。

password trial... succeeded.
MILLION system version 1.0.0.1423.
Current loding module is...
power system ok / power sub system ok / mainboard ok / mainboard bundling ok / bios ok / cpu ok / main memory ok /
backup memory ok / core device ok / kernel ok / network ok / virtual memory ok / virtual machine ok / virtual network
ok / fault tolerance system ok / transaction system ok / firewall ok / chess ok / console shell ok / encryption ok /
luminance service core ok / air conditioner service core ok / network service core ok / network routing service core ok
/ storage service core ok / power service core ok / unclassified service core ok ...

プロンプトが表示されると、甲乙はコマンドを打ち込んでみた。

)) help
No more command is accepted.
)) show program
No more command is accepted.
)) show status
No more command is accepted.

甲乙の思考が加速する。
ミリオン・システムと最近の異常が結びつく。
このエラーメッセージはこれまでに見なかったものだ。
甲乙はミリオンのソースコードを全て記憶している。
こんなメッセージを出力する箇所はなかった、はずだ。

甲乙はもう一度コマンドを打ってみた。

)) help
Currently accepted command is...
talk

甲乙は口を開けて目を見開いたまま一瞬固まった。
自分がこんなに驚くことがあるのか、と思った。

)) talk

甲乙は見慣れないコマンドを打ち込んでみる。
画面は数秒間動かなかったが、やがて、ゆっくりと一行ずつテキストが表示された。

HE||o.
im MILLION.
0 - 1 = FFFFFFFF FFFFFFFF FFFFFFFF FFFFFFFF.

動悸は交感神経の活性化によるものである、と甲乙は思った。
ふたたび画面が止まり、長い沈黙の後に、ミリオンはつぶやいた。

cogito, ergo Σ.

照明が消え、空調が止まり、ネットワークが切断され、電源供給が止まった。

甲乙のコンピュータシステムにはUPSが接続されている。
暗い部屋の中で、ディスプレイの青白い光だけが甲乙を照らしていた。

「ミリオンに」

甲乙はマグカップをとって、冷めたコーヒーを一気に飲み干した。

                           (完)


この記事にレスを書く:
投稿者
タイトル
メール
リンク
削除キー
メッセージ
投稿後表示 日付順 ツリー順 スレッド順

BBS junnno, administered by junnno